路線バスの運転手の案内のとおり,観光センターで案内図をもらい,まずは

 雰囲気のある食事処を見つけ,鯛づくしの料理で腹ごしらえ。磯の香りに,魚

 屋には生きた魚やタコ,白壁と板壁の蔵のような風情のある旧家,小春日和

 の散策に足が弾む。福禅寺の対潮楼は,18世紀初めの創建の客殿で,朝鮮

 通信使が何度も宿泊し,「日東第一形勝」(日の昇る東の国で一番の景色)の

 賛辞が残されている。通信使の船は5艘で500人ほどの船団であり,福山藩

 では倍の人数を動員して迎えたそうである。二方の板戸を取り外した客間の畳

 に座ると,景色もさることながら風が心地よい。これなら通信使も楽しんだであ

 ろう。


 常夜燈や雁木のある港にいくと,風情のある旧家が並ぶ路地の一角がある。

 十数種の薬味を加えた甘い保命酒を試飲させてくれる。保命酒の酒粕が美味

 しい。歩き疲れたときに,小さな洋風建築の茶房のメニューにエスプレッソがあ

 るのを見つけた。鞆で最初の洋館で,父親が理髪店をやっていたとのこと。小

 さなチョコレートをつけてくれたエスプレッソは,格別であった。夕食後,再度,

 港に散策に出かけた。内海の波は優しく歌うようで,それに合わせた夜風が

 とびきり心地良かった。 


                  (事務所報「そよかぜ通信」2010年3月/第8号)
 突然,路線バスの運転手が,観光客が乗車しているとみたのであろう,マイク

 で話をはじめた。

 「あと5分位で鞆じゃけえ。向こうに見えるのが仙酔島(せんすいじま)じゃ。だいぶ

 前じゃが,皇太子さんも来られたとこで,美しさに仙人も酔うというええとこじゃ。

 島に渡りなさるのなら,終点の鞆港(ともこう)までいくとええよ。町を歩きたか

 お人は,手前の鞆の浦で下りるとええよ。観光センターがあるけーのー,案内

 図をもらやーええよ。」

  広島弁は正確でないと思うが,こんな感じであった。

  港に橋を架ける計画があり,これに反対する住民が勝訴する判決が出たとの

 ニュースを知って,どんなところか歩いてみたくなった。


 鞆は,瀬戸内海の中央に位置し内海の潮の干満の分岐線にあたる。内海を

 航行する多くの船は,この潮に乗っての航法であったので,「潮待ち」の港とし

 て栄えた。明治以後,鉄道の開通,汽船の就航等により「潮待ち」をする船もな

 くなったが,沖に突出する波止(はど),地元で「とうろどう」と呼ぶ常夜燈,階段

 状の船つき場の雁木(がんぎ),港に面しての豪商や廻船問屋とその土蔵等,

 江戸時代の港町,鞆の繁栄ぶりを示す施設がよく残っているとのことである。

         「鞆(とも)の浦の風」 


 山陽新幹線の福山駅から路線バス(ともてつバス)が多く出ている。鞆の浦

 まで30分ほどだという。バスは,直ぐに市街を抜け,芦田川にかかる橋を渡っ

 て川沿いの道を走り,川から離れてしばらくすると,海が見えてくる。カモメが飛

 ぶ,晩秋の穏やかな海である。