説明: cid:A1BCA9C3665E4D6CB53955E4436F963C@MH2010504622 「憧れのヴェネツィア」 説明: cid:A1BCA9C3665E4D6CB53955E4436F963C@MH2010504622























説明: cid:A1BCA9C3665E4D6CB53955E4436F963C@MH2010504622 2006年8月のヴェネツィアのホテルでの早朝。ときたま聞こえる,カナル・グ

ランデ(Canal Grande,大運河)を行き交う船の水音。ホテルは,サンタ・ルチア

(Santa Lucia)駅から近いスパーニャ通り(Lista di Spagna)にある。早朝の列車

で着いたのであろう旅行者が石畳をコツコツと歩く音も気持ちよい。この街には,

自動車はもとよりバイク,自転車もない。全く車輪の音がしない朝の気配がこん

なにも心地よいものか。


説明: cid:A1BCA9C3665E4D6CB53955E4436F963C@MH2010504622 早速,ホテルを抜け出す。駅とは逆方向のサン・ジェレミア教会(Chiesa di San

Geremia)前の広場には,もうバールが店を開いている。小さな太鼓橋がかかる

カンナレジョ運河(Canale di Cannaregio)沿いには,パステルカラーの色鮮やか

な建物が並ぶ。橋を渡ったサン・レオナルド通り(Rio Tera di San Leonard)に

入ると,屋台を並べて果物や野菜を売っている。商店主が店の前の通りの掃除

を始める。駅近くに戻ると,スカルツィ橋(Ponte degli Scalzi)前の教会の白い

ファサード前で,神父が掃除している。その様子を旅行者が写真にとろうとする

と,神父は掃除の手を止めてポーズをとる。さすがヴェネツィア。空も快晴。憧

れのヴェネツィアは,期待を遙かに越えて始まった。


説明: cid:A1BCA9C3665E4D6CB53955E4436F963C@MH2010504622 朝食後,サンタ・ルチア駅前から船に乗り,カナル・グランデに向かわずに,大

回りしてジュデッカ(Giudecca)運河から,サン・マルコ広場(Piazza San Marco)

に向かう。18世紀半ばのカナレット(Canaletto)の絵と同じ風景のままである。ス

キアヴォーニ河岸(Riva degli Schiavoni)から下船すると,バラ色と白の大理石

板で覆われ,アーチの連なる柱廊をもつドゥカーレ宮殿(Palazzo Ducale),有翼

の獅子と聖セオドーロが載った2本の円柱をもつ小広場が来訪者を迎える。世界

で一番美しい広場は,L型に折れ曲がっており,小広場の左奥に華やかな大広

場がある。2つの広場をつなぐ折れ曲がるあたりに大鐘楼があり,柱廊が広場全

体の回廊となっている。小広場の右奥(大広場の正面)には,イスラム風のドー

ムをもつ荘厳なサン・マルコ寺院(Basilica di San Marco),その左は化粧直しが

終わった時計塔。巨大な壁画と歴代ドージェ(Doge。元首)の肖像画が並ぶドゥ

カーレ宮殿内の大評議会の間,金色のモザイクで飾られたサン・マルコ寺院内

部は,まさにここがヴェネツィア共和国の政治と精神の中心の場所であったこと

に思いが及ぶ。


説明: cid:A1BCA9C3665E4D6CB53955E4436F963C@MH2010504622 だが,憧れの共和国での最大の楽しみは,この後に乗ったゴンドラでもなく,

迷路のようなこの街で迷子になることであった。

 ヴェネツィアは,ラグーナ(潟)を全部埋め立てるのではなく,川と海の水の流

れを維持し,生きているラグーナの中につくられている。水が常に流れて,川の

流れと潮の満干の力が増幅されないように,櫛の歯のようにたくさんの水路が

つくられた。ヴェネツィアの運河は,陸地を掘った水路ではなく,島と島,干潟と

干潟の間の水の流れているところを,その両岸を木の杭や石材で固めてつくら

れた。こうして,数多くの島が寄木細工のように集まり,その間を網の目のように

運河が走り,数多くの橋がそれをつなぐ,ヴェネツィアの街ができたという(塩野

七生著『海の都の物語(ヴェネツィア共和国の一千年)・上』32〜34頁)。


説明: cid:A1BCA9C3665E4D6CB53955E4436F963C@MH2010504622 サン・マルコ広場から,逆S字のカナル・グランデの中央部で,かつての経済

の中心地であるリアルト橋(Ponte di Rialto)に行き,あとは足の向くまま右に

左に。バールやジェラテリアでカプチーノやスプレムータ(生ジュース),ジェラ

ートを注文し,疲れたら教会や広場で一休み。カッレ(Calle。小路),ソットポル

デゴ(Sotoportego。建物の下をくり抜いた小路),フォンダメンタ(Fondamenta。

運河沿いの岸辺の小路),カンポ(Campo。広場),カンピエロ(Campiello。小広

場),コルテ(Corte。空地),リオ(Rio。小運河)をうろつく。袋小路にはなってお

らず,曲がり曲がっていくと,必ず大運河か海に抜けられると聞いたことを信じ

て。サン・マルコ地区をうろついて迷子になった後,カナル・グランデの右側を

回って,スパーニャ通りのホテルまで,太鼓橋をいくつも渡って,ゆっくりと歩い

て戻った。途中で夕食をとり,ティツアーノ・レッドのヴェネツィアン・グラスとカ

ーニバルの仮面を買い求めた。自動車や自転車が全く通らない石畳の路の

散策は実に楽しい。

                  (事務所報「そよかぜ通信」2007年3月/第5号)