自己決定権の尊重
「そよ風通信」第14号

 2013年は,私の弁護士登録30年の年でしたが,従前の事件・相談の対応,大学

 企業の社内研修の講師として,ちょっとした講義を依頼されることがあります。テーマ

は,コンプライアンスやトラブル予防・対応といったものですが,その中で,自己決定権

に関することを話すことが少なくありません。

 自己決定権の尊重というのは,私的な事項につき個々人が何か善き生き方であるか

を自律的に決定し自己の責任で追求することを相互に承認し尊重し合う原理をいいます。

企業や専門家との関係でいえば,顧客や依頼人の自己責任が働いてきますので,その

前提として,自己決定の基盤確保のために,優位に立つ企業側に積極的な説明義務(情

報提供義務)が課されます。かかる基盤が確保されていなければ,いくら顧客等の承諾書

面をもらったとしても,自己責任が働く格好で自己決定をしたのか疑問が生じます。

 自己決定の基盤を確保させるための情報提供の工夫の一つとして,複数提案のやり方

があります。一つの提案だけをした場合には,説明をして了解を得たと思っても,選択の機

会を確保していませんので,悪い結果が生じれば,事実上結果責任を問われかねません。

複数の提案を行い,その得失を比較して説明した上で選択してもらうのがよいのです。ある

方策には必ずメリットとデメリットがあり,選択はどのメリットを採用しどのデメリットを受容す

るかの判断なのです。企業側で複数提案を考えることで,まず自分の頭の整理ができます。

顧客側でも,複数を比較検討することでマイナス情報を含めた理解が進み,自分で選択した

という満足感も違ってくることになるのです。

                                       (2015年3月)

                                  弁護士 溝 口 敬 人